研究論文が植物科学の国際科学誌Plant Physiology誌に掲載受理されました!
【Title】
UV-A/B radiation rapidly activates photoprotective mechanisms in Chlamydomonas reinhardtii
【Authors】
R Tokutsu, K Fujimura-Kamada, T Yamasaki, K Okajima, J Minagawa
【簡単な内容説明】
植物や藻類といった光合成生物たちは、太陽からの光を利用して光合成を行っています。光合成では、光のエネルギーを化学エネルギーに変換し、最終的に二酸化炭素を固定して糖を合成します。このように光合成生物たちは、光を「エネルギー」として利用する一方で、一般にはあまり知られていませんが、光を「環境情報」として利用することが分かっています。
太陽からの光には様々な色(波長)成分が含まれており、プリズムなどによって虹色の光に分けることができます。* wikipedia「プリズム」参照
このように様々な波長を含む太陽光が降り注ぐ地球において、光合成生物たちは紫外・青・緑・赤・赤外光などといった特定の色の光について個別に応答します。個別の光情報は、光受容体と呼ばれる「特定の波長を感知するセンサータンパク質」によって認識され、光受容体の活性化を介して細胞内の次の生命反応につながります。
本研究では、単細胞の緑藻に異なる波長の光を照射し、紫外光の受容体であるUVR8が強光適応に関与する因子の発現を制御することを見出しました。この発見により、緑藻は紫外光を利用して強光条件に適応するという意外な一面を持つことが分かってきました。ただし、この知見は既に先行研究(Allorent et al. 2016 PNAS)で報告されており新規的ではないため、本研究では基礎生物学研究所の大型スペクトログラフを用いることで、UV-A/B領域の紫外光が重要であることを新たに発見・報告しました。
基礎生物学研究所・大型スペクトログラフを利用した光照射実験の様子
これまでの研究から、陸上植物の紫外光受容体UVR8は短波長の紫外線(UV-B/C)に応答すると報告されており、植物科学の研究分野では陸上植物が示すUV-B/Cへの応答について盛んに研究・議論が行われてきました。
ところが本研究により、水中に生息する緑藻は「より水中に到達しやすい(長波長側の)」UV-A/Bに応答することがわかりました。
本研究で明らかになった緑藻のUV-A/B型紫外線応答は、比較的短波長の紫外線を利用する陸上植物のUV-B/C型紫外線応答とは異なります。
このような紫外線応答の違いはこれまでに報告されておらず、緑藻がなぜUV-A領域の紫外線を感知するようになったのか、そして陸上植物ではなぜUV-B/Cを感知しなければならなかったのか、その謎に迫るキッカケになると期待されます。
もしかしたら、藻類と植物を取り巻く周辺環境(水中と陸上)の変化が紫外線応答の違い(生物進化)を生み出したのかもしれません。
今後は、緑藻の紫外線応答の詳細を調べることで「植物と緑藻に共通する仕組み」や「水中に生息する藻類に共通・特異的な仕組み」といった進化的な側面が明らかになっていくことが期待されます。
また、このような紫外線応答の仕組みを理解することで、将来的には「紫外線に強い光合成生物」や「紫外線をスイッチにした生体センサー」の開発といった応用的研究への発展につながるかもしれません。
本研究は下記の研究サポートを受けて実施しました。末筆ながら御礼申し上げます。
・基盤研究B(代表)2020 - 2024
緑藻の紫外線応答・耐性の分子基盤から紐解く光合成生物の陸上進出
・公益財団法人 中島記念国際交流財団・日本人若手研究者研究助成(代表)2020 - 2021
水圏緑藻における新規紫外線応答メカニズムの分子基盤解明
〜植物の陸上進出のキッカケを探る〜
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